アンロマンティック・ハッピー・デイ

 地下鉄駅の階段を上り地上に出ると、見渡す限りの人・人・人。視界を埋め尽くすほどの人の頭、その数の凄まじさに流川は一瞬めまいを感じた。
 アメリカ最大の都市・ニューヨーク。その中でもマンハッタンといえば文化やエンターテインメント、ファッションの中心地として世界中から観光客を惹きつけている。
 ましてやクリスマスのシーズン、それもクリスマス・イブともなれば、その賑わいもひとしおだ。流川も渡米前、家族からクリスマスの本場であるニューヨークで冬を過ごせることを大いに羨ましがられた。ホテルも飛行機も、この時期は特に高くなるのだという。
 だがしかし、いざ実物を目にすると羨ましいどころではない。
「……おめー、ぜってーはぐれんなよ」
 流川の身体半分後ろの位置で桜木が低い声で言った。声色には流川と同じほどの驚きが滲んでいる。
「……おめーも」
 視線は前に向けたまま頷き合って、ふたりはうねる人波にせーので飛び込んだ。
 何故こんなことになったのかといえば、流川が今朝――それもほとんど正午近くだ――に、クリスマス・イブをロマンティックに過ごすことを思い付いてしまったからだ。
 昨晩遅くまで付き合わせてしまった恋人に朝食を用意している最中。ポリッジをかき混ぜる手を止めて思い付いたそれをベッドの彼に伝えると、恋人は語尾に甘さを残した声で、ついでにいえば眠気でほとんど開いていない目で、いいぞ、と頷いてくれた。
 ――くれたのだが。
 この人混みを前にして、流川の胸にほんの少しの後悔がよぎる。
 ふたりの住むクイーンズのアパートからマンハッタンまではバスと電車でおよそ三〇分かそこらの距離だ。であるからその距離に見合う気軽さでふたりは家事を終えてからのんびりと家を出たのだが、街はもはや色とりどりの芋を洗う巨大なベルトコンベアと化している。
 その上、ブロードウェイからほど近い四九丁目駅で降りてしまったものだから、ちょうど観劇を終え劇場から出てきた客たちの流れに巻き込まれ、ふたりははぐれないだけで精いっぱいだ。これではロマンティックどころの騒ぎではない。クリスマスらしさといえば、この刺すような寒さと、クラクションの隙間から聞こえてくるクリスマス・ソングくらいのものだ。
 ブロードウェイからタイムズスクエアまでを歩く人の流れに押し流されてゆくと、どこか見覚えのある古い石造りの建物と立派なライオンの石像が見えてきた。ニューヨーク公共図書館だ。
 ふたりは大慌てで流れから飛び出し、ライオンの陰に逃げ込んだ。ようやく顔を見合わせてホッと息をつく。
「ヤバかったな、人」
「…………」
 そのまま図書館までの階段を上り、改めてベルトコンベアを見下ろしてみる。空気は痛いほど冷たいのに、誰も皆白い息と赤い鼻で楽しげに笑い合っている。
 その、笑顔の流れる道の脇。
「お、ホットドッグ。落ち着いたら小腹空いたな」
 電飾の巻きついた街路樹のそばに、フードカートの屋台がいくつか並んでいるのが見えた。
「おめーも食うよな?」
 そう言って答えを聞く前に、桜木は寒さに肩を竦めながら階段を駆け下りてゆく。流川は追いかけようかと思ったが、見失ってはたまらん、とその場に留まった。手袋をしてさえ冷える手を擦りながら恋人を待つ。
 寒さに強い桜木は氷点下の中でも人より一段薄着だ。さすがにダウンコートは着ているがその下はベストとパーカーとTシャツのみで、帽子も手袋もしていない。
 流川も帽子は被らず来たが、それは少しでも見映えのする格好をしようという見栄であり、本心では何故耳まで覆えるニット帽を被ってこなかったのかと後悔していた。コートは以前桜木からシルエットがきれいだと褒められた黒のロングコートだが、ニューヨークの冬を過ごすには若干生地が心許ない。これもまた見栄と後悔のひとつだ。
 寒さに思考を陰らせていると、桜木が階段を二段飛ばしで戻ってきた。両手にホットドリンクのカップを握り、ホットドッグのビニール袋をぶら下げている。
「ほれ。おめーの分。あちーぞ」
 差し出されたカップを受け取ると、コーヒーではなくもっと甘い匂いがした。ココアだろうか?
「ホットチョコレート。そっちは玉ねぎ多めのピクルス抜き。合ってんだろ?」
 彼は流川の好みを憶えていてくれたようだ。
「ありがと」
 ふたりは立ったままホットドッグにかぶりついた。
 バリッと皮の破れる音がして、塩辛いソーセージの味が口の中いっぱいに広がる。出来立ての熱ごと一緒に頬張ると、熱さで目の端に涙が浮かんだ。猫舌なのだ。
 流川は人の流れを見ながらこの後の行き先に思いを馳せた。ロマンティックはもうほとんど諦めている。かといってこのまま家に帰るのも惜しい。どこかで買い物なりディナーなりをしていくべきか。
 桜木は建物に何か思うところがあるのか、立派な円柱やらそこに刻まれた細工やらを検分するように見上げている。尖らせた唇でぶつぶつと何か呟いているから、どうやら集中しているようだ。
 あっという間にホットドッグを食べ終えた流川は、汚れた手をティッシュで拭いながら恋人の忙しない様子を観察した。――すると、
「わーった! ゴースト・バスターズだ‼」
「?」
 ホットドッグを食べることも忘れ集中していた桜木が、ひらめきの声を上げた。周りにいた数人が振り返る。が、図書館を見上げている彼は気にするどころか気付いてもいない様子だ。彼が続ける。
「ここ、映画のロケ地だ! どーりで見覚えあると思った。前一緒に観ただろ、ビデオで。ルカワ、ほら、ゴースト・バスター……ってあっ⁉」
 言葉の後半、呼び掛ける声と共に流川の方を振り返った桜木の手――ホットドッグを握った手が、流川の胸に勢いよくぶつかった。べちゃりと嫌な音がして、流川は見なくても自分の胸元がどうなっているのか分かった。
「ワ、ワリー、ルカワ‼ あぁっ! ケチャップが‼」
 幸か不幸か、ティッシュをズボンのポケットにしまうのにコートの前を開けていたから、汚れたのは中に着ていたセーターだった。が、これもまた桜木が似合っていると褒めてくれた、流川お気に入りのノルディック柄のセーターだ。汚れたのは色の濃いネイビー地の部分で、それだけは本当に幸いだった。
「…………へーき、」
 と伝えるより前に、流川の手からティッシュをひったくるようにして奪った桜木が胸のケチャップを拭う。
「あら、やっちゃったね。これよかったらどうぞ」
 すると、近くにいた観光客のひとりが桜木に新しい水のボトルを渡してくれた。桜木は混乱した頭で英語を日本語に変換してから、サンキュー! とそれを受け取った。
「家に帰ったら食器用洗剤をつけてから洗うといいよ」
「そーなんか?」
「うん。きれいに落ちるといいね」
「新しいのを買うなら、セント・パトリック大聖堂の方にいい服屋があったよ。確か名前は……」
 と、観光客は親切にも店の名前まで教えてくれた。
 期せず次の行き先の決まった流川と桜木は、観光客ふたりに礼を伝え階段を下りた。
「メリー・クリスマス!」
 明るい声に送り出され、ふたりは同じ言葉を返す。
「メリー・クリスマス」
 観光客ふたりは本当に親切な人たちだったようで、教えてくれた店は流川の服の系統を反映して落ち着いた、けれどほどよくリーズナブルな価格帯の店だった。恐らく流川たちがまだ学生であるとみて、考慮してくれたのだろう。グイグイと話し掛けてこない店員の接客もいい。
 捨てる神あれば何とやらだな、と僅かに持ち直した気持ちで同色のセーターを見ていると、入口ドアの近くから、
「ルカワ、おい、ちょっとこっち来いよ!」
 と桜木が彼を呼んだ。そばにスペシャル・プライスの赤い文字が見える。流川はそちらに向かった。
「見ろよこれ、やべーセーターあるぞ‼」
「……やべえな」
「これだけ異色だよな、他はどれもかっけーのに!」
 桜木が手にしていたのは、こども用の絵の具チューブを絞ったような、鮮やかな緑色のセーターだった。袖と襟ぐりの色は原色の赤。おまけに中心にでかでかと、踊るサンタとトナカイの柄が編まれている。正にクリスマスにしか着られないような代物だ。
「すげえ! 他にもある‼」
 どうやらこのコーナーにあるものは全て同じ系統のセーターであるらしく、踊るシリーズはジンジャーブレッドマンクッキーや雪だるま、手の生えたクリスマスツリーなんてものもある。あまりの異色さに、流川でさえ少し頬を緩ませた。
「ああ、これはアグリー・セーターっていうんですよ」
 ふたりがあまりにはしゃいでいるのが目についたのか、店員が後ろから近付いて声を掛けてきた。
「アグリー・セーター?」
 桜木が振り返り首を傾げる。
 店員はにこやかな顔で頷いた。
「ええ。アグリー……醜いっていっても可愛いでしょう? 言葉通りの意味じゃなくて、こっちではこの季節、着るのが恥ずかしいようなセーターを敢えて着る風習があるんですよ。おばあちゃんがくれる手編みのセーターみたいに、好みの柄じゃないけど、どうしても着なきゃいけない服っていうのがあって」
「へー。ニシンのパイみたいなモンか」
 少し考えて、流川は映画・魔女の宅急便のことだと気付いた。が、店員は日本で作られたアニメーション映画のことなんて当然知らないだろう。
「あなたの国にもそういう風習があるのね? で、それを逆手に取って楽しもうっていうのが、このアグリー・セーター。クリスマスのパーティーに最適なんですよ」
「たしかに。これ着てパーティー行ったら盛り上がるだろうなあ」
「そういうこと。でもここにあるのは地味なものなんですよ。皆、もっと奇抜なものを欲しがるから。派手な方が高いんです、アグリー・セーターって」
「そうなんか……」
 と、桜木が手の中のセーターに視線を落とす。赤い生地の真ん中で丸いポンポンの赤鼻を付けたトナカイが笑っている。
 その笑顔をいじらしく思ったのだろう。桜木が流川をじっと見つめて彼を呼んだ。
「おめー、赤と緑どっちがいい?」
「…………」

 ふたりは買い物と着替えを終えて店を出た。
「ハッピー・ホリデーズ!」
「ハッピー・ホリデーズ」
 見送る店員の声を背中で受ける。コートの下はそれぞれ、赤と緑のセーターだ。流川が赤、桜木が緑。柄は揃いの赤鼻のトナカイ。鼻の部分がポンポンになっているので、流川の自慢のロングコートもシルエットが台無しだ。
 が、ロマンティックを諦めてしまえば今更どうということはない。
 日の傾き始めた街は、より明るさを増している。店みせのショー・ウィンドウがライトアップし、街路樹の木にも明かりが灯る。渋滞しゆったり進む車のライトも街を彩る美しい光のひとつになった。
 ふたりはより密度の増した人の流れに踏み込んで、波のゆくえに身を任せた。通路に進行方向の規制はない筈なのにほとんど一方通行に進むから、きっと行き先は皆同じなのだろう。
 しばらくぷかぷか歩いていると、進行方向から微かな音楽が聞こえてきた。
 ビルに設置されたテレビモニタや店先で流れる陽気なクリスマス・ソングではない。それよりもっと静かで厳かな、身体の芯に響くような生演奏の音楽だ。
「わあ、」
 と、前を歩く人たちが上を見上げ次々に声を上げる。ふたりも彼らを追って視線を上げた。
「おお、」
「うわ、すげー」
 ふたりの歩く五番街と五〇丁目の交差するその場所に、セント・パトリック大聖堂はあった。
 アメリカ最大のカトリック教会であるこの教会は、ニューヨークの近代的なビル群の中にあって歴史の重みを乗せているかのような威厳を放っている。
 空を突き刺すようなふたつの尖塔や入口のアーチには精緻な装飾が施され、建物に込められた信仰を確かなものに感じさせる。先ほど見たニューヨーク公共図書館も同じほど古い建物だったが、建築様式の違いのためか、こちらの方がより厳然とした印象を受けた。
「これ、賛美歌なんかな?」
 もしくは、開いた扉から漏れ聞こえる音楽のためもあるかもしれない。
「さあ」
 桜木の声に流川も首を傾げた。バスケットボール以外のことは基本的に何も知らない。そのことを桜木もよくよく知っているから、回答を期待してのことではないだろう。
「中に立派なパイプオルガンがあるのよ。たしか、パイプが九〇〇〇本もあるの」
 すると、ふたりの後ろを歩いていたふたり連れが声を掛けてきた。シルバーヘアの上品な老婦人だ。ほっそりとした、そう大きくない身体は同じ道を歩いてきたとは思えないほどだが、何ともないところをみると地元の人間なのかもしれない。
「一般の人でも中に入れるから、よかったら寄ってみるといいよ。ステンドグラスもきれいだから」
 隣を歩く同じ年頃の男性が言う。婦人も相槌を打ったが、少し思い直したようで、真っ白いため息を柔らかくついた。
「でも今どきの子はお祈りよりも遊んだりデートしたりする方が楽しいんじゃなくて? ほら、あなた。あそこにはリンクもあるし」
「リンク?」
 夫婦の会話に桜木が口を挟む。婦人は、あら嫌だわ、と頬を染めて、ふたりに向かって頷いた。
「ええ。ロックフェラーセンターの広場には冬の間アイススケートのリンクができるの。一九三六年から続くニューヨークの伝統よ」
「スケート……。おめー、スケートやったことある?」
「……多分ねー」
「ぶはっ! 多分って何だよ⁉」
「あら、じゃあ行ってごらんなさいな。当日券も出ているはずだから」
「どうする? 行ってみっか?」
「すべらないにしても、ツリーは一見の価値があるから。ニューヨークに来たなら是非見ていって欲しいな」
「あなた、」
「だってよ! 行ってみよーぜ、キツネ!」
「ン」
「何だか無理強いしちゃったみたいでごめんなさいね」
「いえいえ、教えてもらえて嬉しーっす!」
「あざっす」
 いつの間にか歩みは進んで、大聖堂はもう横断歩道を渡った先だ。薄く開いた扉の中からはやはり荘厳な音楽と、蝋燭の火らしい橙色の灯りが見えた。
 特に信仰のないふたりは、大聖堂は外側から見るに留め、ロックフェラーセンターに向かうことにした。
 ほんのわずかな時間を共に過ごした老夫婦に礼を伝え、大聖堂側の横断歩道ではなく、五〇丁目の通りに向かう横断歩道に方向を切り替える。
 別れ際、老夫婦は横断歩道を渡りながら
「メリー・クリスマス」
 と手を振ってくれた。
 今日三度目の挨拶に、ふたりも手を振り挨拶を返す。
「メリー・クリスマス!」
 桜木のよく通る声に、雑踏の中からいくつかの
「メリー・クリスマス!」
 が返ってきたのがおかしかった。
「――しかしよー、おめーもずいぶん丸くなったよなあ」
 ロックフェラーセンターは大聖堂からほど近く、平時ならば歩いて二・三分でたどり着ける距離だ。
 大聖堂の混雑から分かれたおかげで少しだけ密度の薄くなった人混みを歩きながら桜木が流川に言った。
「何が?」
 流川は言葉の意図に悩み問い返した。
「挨拶なんておめー、日本じゃ全部『ッス』で済ませてきたじゃねーか。それが今やメリー・クリスマスなんて季節の挨拶までおぼえて……丸くなったぜ、マジで」
「こっちじゃもうその手は使えねー」
「『ッス』も別に万能の挨拶じゃねーぞ。無視もしなくなったし。まあこれは当然だが。へへ。おめーもアメリカに来て、ちったあ変わったみてーだな」
「変わったっつーなら……、」
「ん?」
「……何でもねー」
〝もし俺が変わったというなら、それはお前がずっと隣にいたからだ。お前の明るい振る舞いがそうさせたのだ〟と。流川は思ったが言わなかった。今日一日、試して失敗して諦めて実感したが、自分たちにロマンティックはほとほと似合わないのだ。
 それは世界中の恋人たちが憧れるスケートリンクに立っても、だ。

 赴いてから知ったが、ロックフェラーセンターのスケートリンクはニューヨークで最もロマンティックなスケートリンクとして有名なようで、クリスマス・イブのその場所は大混雑の様相だった。
 混雑だけならまだいい。日と時間によって値段の変わるチケット代はクリスマス・イブと当日が最も高い。そこに更に靴のレンタル代が加わると、ふたり分で先程買ったセールのアグリー・セーターをあと三枚は買えるほどだ。
 そのチケットを、桜木は得意の値切り交渉で一〇〇分の一の値段にしてみせた。対応した若い男性スタッフはほとんど泣いていて、いつ警備員を呼ばれるかと流川は内心ヒヤヒヤした。これもまたロマンティックなイブとしては、というかどんな日だって言語道断だ。
「やり。ロッカーはタダだ」
 レンタルの靴――これも値切ってふたりで一ドルにした――を履き替え、荷物をロッカーに詰め込む。
 今日が初めての初心者と、すべった記憶の全くない初心者で手を繋いでリンクに足を踏み入れるタイミングを探す。恐れを知らないこどもたちがびゅんびゅんと風のように疾走するのを数度見送って、ふたり顔を見合わせてから氷の上に下り立ち、
「ぎゃんっ‼」
「‼」
 手を繋いだまま派手に転んだ。
 顔からぶつかった氷に、色とりどりの光が反射している。赤と、青と、黄色と、緑。振り返って見上げると、そこには大きなクリスマスツリーがそびえ立っていた。
「すげー……」
「……」
 てっぺんに星をいただいて大らかに両手を広げる立派なツリーの存在に転ぶまで気付かないだなんて情けない。
 無数の星の光の灯る天と地の間。ふたりもみくちゃになって抱き合い転んだままの姿で、声を立てて笑い合う。
 飾っても気取っても。どこにいたって自分たちは結局自分たちだ。
「今立ち上がっても結局また転ぶんだろーな」
「ふ、尻、つめてー」
「おめーが薄着だからワリーんだよ。何だその格好は」
「おめーが好きだっつったから」
 会話のはずみでポンと口から言葉がこぼれて、瞬間ふたりは見つめ合う。双方驚きに見開いた瞳の中に、星と共に互いの姿が映っている。
「ふは。そーか、そういや、セーターもズボンもぜーんぶ俺のお気に入りだ」
「そー。だからさみーの」
「仕方ねえ、我慢しろい。もうちょいして気が済んだら、メシ買ってさっさと帰ろう」
「ん、」
 ふたり立ち上がるふりをして、転んだふりをしながらきつく抱き合う。そんなことをしなくても、誰も皆きっとクリスマスの幸福に夢中だろうに。
 胸を合わせると、コートの下で赤鼻のトナカイ二匹がふたりを真似て鼻先を擦り合わせた。